
| §8 なぜハチが死んだのか? |
「春先はハチが増えるのかな?」
僕は思わずそんなことを考えた。どうも屋上にはハチの巣があるようだ。
そんなとき、空にプロペラの音がした。僕はあわててカメラを構え、低空を飛ぶヘリに向けてシャッターを切り続けた。ヘリは僕をあざ笑うように飛んでいった。
しばらくすると、またヘリが来た。僕はまたシャッターを切る。ヘリは必ず風上を飛んでいく。どうも何回も往復して、毒ガスを撒いているらしい。
屋上にいると、引っ切りなしにヘリが飛んでくるのがわかる。本当に執拗な攻撃だ。考えてみると、ここ一宮町に来る前後の攻撃はかなり派手である。――毒ガスを撒いていたジェットパック、ここに出入りしている二組の公安、夜中に大破した黒のスープラ、対潜哨戒機、何度もやってくるヘリコプター……、一気に何年もの時間が駆け抜けていったような気がする。

![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
僕はそう心に言い聞かせた。
翌日、僕は出発の準備に追われていた。荷物を運んだり、仲間に連絡を取ったりと、大急がしだった。
そんなとき、尊師の黒いベンツの上に黄色い粉が、たくさん付いているのに気がついた。ほこりと比べると、粒子がかなり大きく、それがほこりではないことは一目瞭然である。
「これは何だろう。」
僕は思った。普通の粉とは思えない。
そんなことを考えていたとき、玄関の階段で、黒いハチがたくさん死んでいるのに気が付いた。どのハチも黄色い粉にまみれて死んでいる。
その中には、まだ生きているハチもいた。もう瀕死の状態で、よたよたと歩くばかりで飛ぶことができない。もちろん、このハチも黄色い粉にまみれている。
僕はもっとよく観察してみた。すると、ハチは黄色い粉にまみれ、まず飛べなくなる。次に体の力が失われ、やがてばたばたと死ぬというようであった。
それでは、この黄色い粉とは何なのであろうか。
僕は昨日の毒ガス攻撃の激しさを思った。この黄色い粉とは、大気中の毒ガスの粒子が冷却されて降ってきたものではないだろうか。もしこの黄色い粉に“毒”がなかったならば、こんなにばたばたとハチが死ぬだろうか。
僕は、昨日元気に屋上を飛び回っていたハチの姿を思い描いた。あんな元気だったハチが、“毒”という原因なくして、こんなに大量に死ぬだろうか。
そこで、僕は思った。今撒かれている毒ガスは、微量なものかもしれない。なぜなら、僕たちが即ばたばたと死んでいくことはないからである。しかし、小動物にとっては、それが致死量となっていまう。そこで、苦しみながら死んでいく羽目になる。
つまり、これは警告なのだ。大量に死んでいるハチは、明日の僕たちの姿かもしれないのだ。

ハチは教えているのだ。
あなた方もやがてはこうなりますよ、と。
こうして僕たちは一宮町を去ることになる。
毒ガスが撒かれていることが信じられない人は、まだたくさんいるかもしれない。しかし、これらはすべて事実なのである。
なぜハチが死んだのか?
みんな考えてみてほしい。
そして実感してほしい。
戦争はすでに始まっている、と。
【▲目次へ戻る】
【△§7 突然!対潜哨戒機へ】