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アレフ・レポート No.07 マハティールから愛をこめて From Mahathir, with Love |
アジア経済の崩壊、日本版ビッグバンのスタート、ヨーロッパ単一通貨ユーロの登場、ニューヨーク市場のバブル……。今、世界経済はどのように動いているのか。今、急速に推し進められているグローバリゼーションとは何なのか。
97年9月20日、香港で開催された世界銀行年次総会で、マレーシアのマハティール・モハマド首相は演説を行った。その演説にはグローバリゼーションを解く鍵が隠されている。
以下、そのときのマハティール首相の演説の草稿と、翌9月21日にジョージ・ソロスが行った演説の草稿を提示する(見出しはオウム真理教広報部で付けたものである)。わたしたちは今こそ、マハティール首相の言葉に耳を傾ける必要がある。グローバリゼーションの正体を知るためにも……。
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わたしが世界銀行・IMFの年次総会で演説を行うよう依頼されたのは、三カ月以上も前のことです。当時アジアの状況は円滑で、特に東アジアは円滑そのものでした。ですから、だれもが経済会議、つまり「東アジア経済会議」を開催することは理に適っており、簡単なことだと考えていました。 東アジア諸国は、国内・国外を問わず平和で、カンボジア紛争すら止んでいました。東南・東北アジア諸国は、経済的に確実に成長する予定でした。そして、徐々に世界の中で経済大国になっていくはずでした。 「アジアの龍虎」といった言葉が盛んに使われ、「東アジアの奇跡」という言葉まで飛び出しました。わたしたちは舞い上がっており、自分たちの強さ・技術が称賛を受けていると思い込んでいました。 |
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わたしたちは、日本・韓国の経験を忘れていたのです。この二つの国が世界の先進国に追いつこうとしたとき、妨害の手が入りました。日本製品の競争力を下げるために円が引き上げられ、韓国は新興産業国家(NIC)に指定され、産業発展をストップさせられてしまいました。 わたしたちはメキシコの教訓も忘れていました。メキシコ経済は海外投資の撤退により、突然破綻しました。急場を凌ぎ、変動相場制を維持するために、メキシコは200億ドルの海外負債に頼らざるを得ず、これによって対策が講じられたのでした。 |
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わたしたちは「マレーシアがメキシコの運命をたどる」と聞いても、笑い飛ばしていました。わたしたちの経済が健全な時に、どうしてそんなことが起こり得るでしょうか? 特に、マレーシアは海外負債を抱えておらず、成長率は高く、インフレ率は低いものでした。政治は安定し、社会的にも調和が取れていました。わたしたちは30年成長計画を打ち出し、その戦略を練り、施行へ向けて動き出していました。 |
しかし今、わたしたちは少し分別を持つようになりました。今ではなぜ「マレーシアがメキシコの運命をたどる」と言われていたかが分かります。 |
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わたしたちは今、メキシコの経済破綻が操作され作り出されたものであること、そして他の発展途上国の経済も突然操作されて危機に瀕する可能性があることを学びました。そうした操作を行うのは、大口投資家であり、彼らは今や「だれが繁栄し、だれが繁栄すべきでないか」を決定しています。 演説依頼を了承したとき、わたしはこうしたことに関して全く知りませんでした。わたしはマレーシアの希望と計画、そして繁栄を他国と分かち合いたいという思いを話すつもりでした。わたしは「共同繁栄政策」、つまりだれにとっても利益となる戦略、そしてアジアの繁栄が世界の繁栄につながるという考えを話すつもりだったのです。
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「共同繁栄政策とは何だろう」と考えていらっしゃるかもしれませんから、ここで説明しておきましょう。 それは単に「隣国の繁栄を助ければ、それに伴って自国も繁栄する」という政策です。隣国が繁栄すれば、その国は安定し、その国の人々がわたしたちの国に移民として入ってくることもありません。隣国が繁栄すれば、わたしたちの製品にとって市場ができることとなり、投資チャンスも出てきます。つまり、隣国に職と富を創設することは、わたしたちの利益なのです。 |
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隣国が貧しければ、彼らにとってだけでなく、わたしたちにとっても問題です。隣国が問題を抱えていれば、それは国境を超えてわたしたちに影響を与え、結局わたしたちの平和と繁栄を脅かします。 日本がマレーシアに投資を行ったとき、それによってマレーシアには職と富が創設され、わたしたちは急速に産業化を推進することができました。日本もその投資から莫大な利益を得ました。そして、何よりマレーシアは日本最大のお得意先の一つとなったのです。 明らかに日本はマレーシアを繁栄させ、自国を繁栄させたのです。これが共同繁栄政策であり、それは隣国を顧みない「自国繁栄政策」とは違うものです。自国繁栄政策では一方しか利益を得ることはできませんが、共同繁栄政策では双方が利益を得ることができます。 |
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マレーシアは発展途上国ですが、隣国を援助する資金を多く拠出しています。わたしはここでそれを吹聴するつもりはありませんが、わたしたちは共同繁栄政策の考え方にのっとって、他国への援助を行っています。 |
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自国繁栄政策という旧式の考え方は結局、ゼロサム・ゲームにしかなりません。一方が勝つためには他方が負けねばならず、一方の繁栄は他方の貧困の犠牲に成り立つことになります。 わたしたちが援助を行おうと思っても、隣国が外国に猜疑的で、とてつもなくナショナリズムに凝り固まり、自国の繁栄のみを考えている場合がありました。しかし、マレーシアは開放政策を取り続け、その結果マレーシアは繁栄し、やがて東南アジアのナショナリズムは、開放的な経済政策にとって代わられることになりました。 |
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ASEAN、そして東アジア全体は今、この共同繁栄政策という哲学を採用しつつあります。南アジアもアフリカ諸国と手を組んで、この政策を推進しつつあります。もしわたしたちすべてが互いの繁栄のために協力し合えるなら、世界は何と素晴らしい場所となるか想像してみてください。そして、それは全く可能なことなのです。
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| しかし、旧式の自国繁栄政策は、今なお世界中に支配的で、超富裕層にとっては重要な指針であるようです。彼らにとっては、富とは他人の貧困化によってしか得られないものであり、自らを豊かにするためには他人が持っているものを奪わねばならないようです。彼らの武器は富であり、それによって彼らは他の貧しい人々を支配しています。 | ||
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ほぼ半世紀の間、東アジア諸国は豊かになるために、昼も夜も努力してきました。マレーシアが1957年に独立を達成したとき、当時500万人だった人口の平均所得は350ドルでした。それから苦難と汗の40年が経った1997年7月、人口は2000万人になり、平均所得は約5000ドルを達成しました。しかし、7月以降何が起きたかについては、皆さんもご存じのとおりです。 わたしたちは長い間、豊かな先進国の意見を取り入れようとしてきました。わたしたちは、株式市場・通貨市場を開放しました。しかし、マレーシアで経済活動を行っていたほとんどの外国企業は、マレーシア人のアクセスを拒絶しました。それでも、わたしたちは不平を言うことはありませんでした。外国企業が生み出す利益は、彼らの自国株主たちの懐に入り、彼らは事実上税金を払っていないにもかかわらずです。 |
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わたしたちは、先進国から次のような指示を受けました。マレーシア通貨の国外取引を許可すること。短期の売りを許可し、借りた株での取引すら認めること。投機を認めること。わたしたちはこれらの指示をすべて実行しましたが、努力が足りないと言われました。 わたしたちは次のような忠告も受けました。わたしたちは成長のスピードを遅らせた方がよいこと。マレーシアはこれほどの成長には耐えられず、このような成長は悪い結果にしかならないこと。わたしたちの過熱はよくないこと。特にわたしたちは巨大プロジェクト、いわゆるメガ・プロジェクトには参入すべきでないこと。わたしたちは必要とされる最低限のインフラ整備で十分であること。 しかし、わたしたちはインフラ整備なしでは成長は望めないとも言われました。実に矛盾する指示・忠告です。 |
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しかし、マレーシアを含む東南アジア諸国は成長・繁栄を続けました。こうした新興諸国、特にマレーシアは柔順でなく、強情で、時には生意気でした。わたしたちは先進国を凌ごうという意欲を持っており、力があり、世界を動かし、揺るがしていました。 わたしは平均的な普通の人がどう考えているかは分かりませんが、マスメディアに登場する者や巨大金融グループの関係者の多くは、東南アジア諸国、特にマレーシアが先進国に追いつこうという姿勢を改め、立場をわきまえるべきだと考えていたのではないかと推測しています。彼らは、もし東南アジア諸国が言うことを聞かないなら、力づくでも言うことを聞かせようと考えていたでしょう。そして、これらの人々は、自らの意志を新興諸国に押し付ける財力と手段を持ち合わせていました。 |
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| ひょっとしたら、そのような陰謀はなかったのかもしれません。しかし、少なくとも少数のメディアと金融投機筋が、独自の行動計画を持ち、それを実行するのを決めていたことは極めて明らかなのです。 | ||
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わたしたちは投機を含め、海外投資は常に受け入れてきました。外国人投資家は投資をしたければ株式を購入し、市場から撤退したければそうすることができました。その際、何ら理由など求められませんでした。しかし、もし巨大投資家が莫大な資金力によって思いのままに株価を上下させ、株式操作によって巨大利益を上げるようなことをすれば、わたしたちはとてもそのような投資家を受け入れるわけにはいきません。彼らの利益がマレーシアの損失となる場合はなおさらです。それでは旧式のゼロサム・ゲームと何ら変わりないからです。 国際貿易には通貨交換が不可欠です。通貨交換なしでは、物々交換に頼らざるを得ません。貿易のために通貨を売買することは良いことです。しかし、この通貨売買から、純粋に通貨を商品と見なす貿易が始まりました。 |
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| 通貨取引量は、商品・サービスの実取引量より20倍多いと言われています。取引に関与している人々が利益・損失を読み取る以外、この巨大取引の恩恵は世界に還元されていません。職が創設されるわけでもなく、一般の人が製品・サービスを手にすることもありません。明らかに巨大な金額が銀行から銀行へ動き回っているにもかかわらず、取引全体は秘密で闇に包まれています。本当の通貨は関係がなく、数字だけが関係があるのです。マレーシアのリンギットを10億運ぶためには、大きなトラックが必要です。このようなことは明らかに物理的に不可能です。巨大強盗列車でもあれば別の話ですが。 | ||||
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投資家たちは明らかに、一つのビジネスにつき何十億もの利益を上げています。もし彼らが利用できる資金量が多く、彼らが通貨売買によって通貨価値をコントロールできる立場にあるなら、通貨市場は彼らの牧場になってしまうでしょう。指数がどうなろうと、彼らは必ず利益を得るのです。 残念ながら、彼らの利益は他の人の貧困化の上に成り立っています。最貧国の最も貧しい人々が貧困化しています。東南アジア諸国が今、標的となっています。その理由は、東南アジアには資金があり、なおかつ、それを防衛するほど十分にはないからです。 |
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マレーシアについて言えば、リンギットは20パーセントも下落しました。わたしたちは皆、政府も含め、購買力を20パーセント落としたことになります。貧しい人々はますます貧しくなり、マレーシアでは現在、貧しい人の数が増えています。金持ちも貧しくなっていますが、彼らに同情する余裕はありません。 しかし、通貨取引をする者たちはますます金持ちになり、他人をますます貧しくしています。彼らは実際、これ以上の財産を必要とはしない億万長者です。彼らの投資会社の株主すら金持ちです。その配当率は年間約35パーセントと聞いています。 |
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| 先進国はわたしたちにこう言っています。国際金融市場をきちんと理解しないなら、世界の流れに乗り遅れると。つまり、わたしたちは貧困化を甘んじて受け入れねばならないと。なぜならそれが国際金融だからです。声を大にして言わねばなりませんが、投資家がより金持ちになるために自国通貨の損失を受け入れるほど、わたしたちは洗練された頭脳の持ち主ではありません。 | ![]() |
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わたしたちはまた、彼らが強大な力を持っている者であることを警告されました。そして、もしわたしたちが文句を言ったり、何らかの方法で彼らを失望させる行動を取るなら、彼らはいらいらすると。彼らがいらいらするとは、わたしたちを皆殺しにしたり、不具者にしたりできるということです。彼らはどこにでも影響力を持っており、これからもずっとそうだということを、わたしたちは認めざるを得ません。そしてそれに対し、わたしたちが抵抗する手段はありません。 「わたしたちが繁栄する、しない」を決定するのは、彼らだからです。 |
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かつてアメリカでは独占が許されていた時代がありました。当時ロックフェラーがアメリカの石油産業をコントロールしており、中小ライバルを撃退し、顧客を獲得していました。そこでアメリカ政府はこの手法を適正でないと見なし、独占禁止法によって独占を非合法化しました。 今から数十年前にも、ある人々が「企業の支配権を獲得し、その資産を奪う」というアイデアを思いつきました。これにより、企業の中には中小株主に配当を返せない企業も出て、多くの人が資金を失いました。 このときもアメリカ政府は介入に乗り出し、一定パーセント以上の株式を所有する場合、他の株主に価格提示を行う義務を取り決めました。こうすれば中小株主も提示価格で株式を処分できます。弱い企業の株式を所有しても安心できるようになったのです。 その他にも濫用を防ぐために、5パーセント以上の株式を購入する場合には、それを発表しなければならないことが取り決められました。 もし株式売買において内部者が内部情報を利用した場合、不正利益と見なされ、非合法となることも決められました。 |
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| わたしが以上のようなことを申し上げているのは、「暴利をむさぼる不届き者たちから社会を守らなければならない」ことを言いたいからです。大きなリスクとなるのを承知で申し上げましょう。通貨取引は不必要、非生産的、非道徳的なものです。通貨取引はやめなければなりません。通貨取引は非合法化しなければなりません。わたしたちは通貨取引など必要ではありません。わたしたちがお金を買う必要があるのは、実際の貿易で決済をしたい時だけなのです。そうでない場合には、商品を売るのと同じように、通貨を売買すべきではありません。 | ||||
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わたしたちはブレトンウッズ体制、固定相場制に戻ることはできません。固定相場制は戦後の世界経済復興を支えることはできませんでした。固定相場制の欠陥は、当該国の経済実績を反映していなかった点にあります。もちろん主権国家は思い通りに通貨を切り下げることができましたが、それは主権損失を意味しました。通貨取引をする者が現れ、様々な手法をめぐらしました。しかし、彼らは比較的小さなプレーヤーで、市場を支配し、動かし、揺るがしたりすることはありませんでした。彼らは単なる投機家だったのです。 わたしは思いますが、固定相場制を復活させたいと考えている人は一人もいないでしょう。分別ある市民はどこの国であれ、無政府状態を避けるはずです。同じようにわたしたちは、世界の金融システムにおける無政府状態を避けるべきです。ある程度の不確実性なら存在してよいのかもしれません。しかし、世界金融が全くの不安定状態に陥っては、だれの利益にもなりません。もちろん、そうした不安定状態を意図的に作り出している人々は例外です。彼らは不安定状態における計画・秘密・利益を確実に把握しています。彼らには不確実なことは何一つありません。彼らは絶対確実な方法で取引を行い、損失を出すことはありません。インサイダー取引が不正なら、次に起こることを正確に知った上で取引を行うアウトサイダー取引も不正ということになりはしないでしょうか? |
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もしわたしたちが貿易成長を望むなら、通貨価値を当該国の経済状況に見合った額に設定すべきです。通貨価値・為替レートを設定するための指標は数多く存在します。ある為替レートで適正な経済活動を行っている国は、その数字を維持すべきです。もし経済活動がうまくいっていない国があれば、通貨切り下げを行い、コストを下げ、製品に競争力を付けて経済を立て直すべきです。一方ある国の競争力が強すぎれば、通貨が低く設定されすぎていると考えるべきです。多くの要因が関わってくるので、多くのレートが存在し得ることになります。そうなってこそ初めて、必要に応じて、通貨取引を行う下地もできてくるでしょう。 こうすれば固定相場制に戻る必要もありません。変動幅もそれほど大きくならないでしょう。純粋な意味では投資家に不確実性は付きまといますが、当該国に金融危機を引き起こすような大きな揺れは出てこないでしょう。貿易は破綻することがなく、逆に繁栄し、あらゆる人々の富を増大させるでしょう。そして、これは共同繁栄政策の考え方とも合致します。 |
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| 東南アジア諸国が繁栄したのは、大まかに言えば、経済をよりよく管理したからです。東南アジア諸国の繁栄は貿易相手国の繁栄にもつながりました。実際、東南アジア諸国は他の発展途上国のモデルになろうと努力してきたのであり、その点では多大な貢献を成し遂げました。 | ||
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わたしたちはマレーシアこそ、他の発展途上国、特に自由化を望んでいる旧共産主義諸国に、市場経済の恩恵を最も効率よく伝えることができる国だと考えてきました。発展途上国がヨーロッパ・北米を眺めても、「自由市場経済など自分たちには管理できない高嶺の花だ」と感じるだけでしょう。ヨーロッパは現在の状態に至るまでに2世紀以上を費やしました。ですから、発展途上国がヨーロッパを見ても、要求される手間・時間に気おされて、計画を先送りしようと考えてしまうでしょう。自由市場経済と比較すれば、中央計画経済システムの方が遥かに採用しやすかったのです。しかし、わたしたちが皆知っているように、社会主義・共産主義は失敗に終わりました。社会主義システムはうまく機能しなかったのです。明らかに自由市場システムの方が優れていたのであり、旧共産主義諸国は、少なくとも部分的には自由市場システムを取り入れざるを得ないのが実情です。 マレーシアは40年前までイギリスの元植民地でした。もし発展途上国が、自分たちとよく似たマレーシアが首尾よく市場経済を管理している状況を目にすれば、彼らはより自信を持ち、自分たちも同じことをしようと考えるでしょう。東南アジアの他の国々も、やはり魅力的でしっかりしたモデルとなり得ています。こうした国々はノウハウを喜んで提供し、あまつさえ経済発展と管理方法を他の発展途上国の人々に教えたいとさえ考えています。 |
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わたしたちは先進国・援助国のように多額の資金を拠出したわけではなく、借款を行ったわけでもありません。しかし、わたしたちは、東南アジア・アフリカ・中央アジア・南太平洋の多くの国々が中央計画経済から自由市場経済へと移行する際、それを効率よく手助けできると考えています。 なおかつ、東南アジア諸国は互いを観察し合うことによって、管理方法・発展戦略について学んできました。わたしたちは正しいと思われるものは採用し、機能しないと思われるものは捨て去りました。わたしたち自身が互いのモデルだったのであり、東南アジア諸国が同時に繁栄したのは決して偶然ではないのです。 もう少しのチャンスがあれば、東南アジア諸国はアジアや他の地域の多くの発展途上国の成長のために、システムや戦略を提供できるのです。 |
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現在の発展途上国が先進国になれば、世界はどうなるでしょうか? もし自国繁栄政策というゼロサム・ゲームが続くなら、現在の先進国はより貧しく、弱体化し、新興先進国の植民地となるでしょう。もしそうであれば、現在の先進国は、発展途上国の発展を妨げるべきだということになります。東北・東南アジアは貧しい状態のまま永遠に不安定状態にしておくべきであり、もちろん未来に発展が期待されているインド大陸についても、発展させてはならないということになります。12億の東南アジア人、そして徐々に豊かになりつつある20億の東アジア人は、いかなることがあっても発展してはならないということになります。 過去のイエロー・ペリル(黄禍論)にブラウン・ペリルが加わるのです。ジンギスカンが再び登場し、ヨーロッパ人が圧倒されるという話がまた浮上するでしょう。 しかし、ゼロサム・ゲーム理論は、悲観主義で外人嫌いの人々、「文明の衝突」を唱える人々の考え方です。それが現実のものとなるかどうかは、わたしたちの現在の態度・行動次第です。過去にも日本から産業用原料を奪った結果、日本が太平洋戦争に突入したという経緯があります。 しかし、もしわたしたちが皆、共同繁栄政策を採用し、他国の繁栄こそ自国を豊かにするチャンスと見るなら、発展途上国の富が増大し、その技術力が進歩することを恐れる必要はなくなります。 |
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もう一度繰り返しましょう。日本がマレーシア製造業に投資を行ったとき、マレーシアが繁栄しただけでなく、マレーシアは日本最大のお得意先の一つとなったのです。今日では、日本・マレーシア貿易収支は圧倒的に日本有利です。そして何よりも、日本はマレーシア投資から莫大な利益を得たのです。 マレーシアへの海外投資は、過去30年間で約1000パーセント上昇しました。さらに特筆すべきことは、わたしたちは今、製品を製造し、マレーシア・ブランドとして輸出できる能力を獲得したことです。 明らかにこれはゼロサム・ゲームではありません。これはだれもが繁栄するシナリオです。日本はマレーシアを援助することによって自ら潤ったのであり、何一つ損失を出しませんでした。さらに言えば、マレーシアだけでなく他の国々もその恩恵を受けたのです。なぜならマレーシアはコストを削減し、世界の人々、特に貧しい国々の人々でも購入できる製品を提供できたからです。もちろんマレーシアは日本だけの市場ではありません。マレーシアには購買力と需要があり、他の先進国のあらゆる製品にとって格好の市場となるはずです。換言すれば、マレーシアが繁栄すれば先進国も繁栄するのです。 |
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同じことは、他の東南アジア諸国についても言えます。東南アジア諸国の繁栄は、「北」の国々を含め多くの国々の繁栄につながっています。貿易指数を見れば、それがはっきりと分かります。 発展途上国の多くは現在もなお貧しいままです。そうした発展途上国は、先進国の富にほとんど貢献していません。そうした国々は常に金融支援を必要としており、不安定です。絶えざる内戦・飢餓・あらゆる災害に見舞われています。こうした国々の旅行には死の危険が伴い、平和維持活動のために莫大な資金が費やされています。 一方、繁栄した国はより平和で他国に負担をかけません。それゆえ、共同繁栄政策は自国繁栄政策よりも見返りが大きいのです。 ですから、発展途上国の繁栄を恐れる必要は何もありません。発展途上国の繁栄は先進国にとって脅威ではないのです。発展途上国の発展を抑圧し、妨げ、発展途上国の相互交流、あるいは先進国との相互交流を阻害しようとしても、何の利益にもなりません。発展途上国は脅威ではありません。なぜなら、発展途上国は途上国内での競争を勝ち抜かねばならず、結束して先進国と渡り合う余裕などないからです。特に、アジア人はヨーロッパ人よりも民族的に多様で、結束することはできないのです。「文明の衝突」など起きようはずもありません。 |
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もちろん、完全に平和な世界は不可能かもしれません。地域戦争は起こり続けるでしょう。そして、そうした戦争のために武器が製造され、売られ、莫大な利益を生み出すでしょう。しかし、全体的に言えば、一様に発展し繁栄した世界の方が、富裕層と貧困層に分化した世界よりはよいのです。 ここ10年間、通貨下落・株式攻撃によって東南アジアを後退させようという試みが繰り返されてきました。しかし、この苦い経験にもかかわらず、わたしたちは現在も欧米からの投資を緊急に必要としています。現在、海外資本(欧米資本)が東南アジアから流出しているという話題がよく口にされています。しかし、わたしたちも海外資本を恐れていることを言わねばなりません。わたしたちは海外資本が自国の繁栄の助けとなると考えていたので、株式市場・金融市場への海外投資を積極的に促進しました。そして、この姿勢はこれからも続けるつもりです。しかし、わたしたちはより慎重にならざるを得ないようです。誠実な海外投資家もいると信じています。しかし、多くのごろつき連中もいて、彼らは大混乱を引き起こして逃げ去るのです。 |
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| George | ![]() |
Soros |
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わたしたちは今でも、アジアの繁栄は世界の繁栄につながると考えています。メディアや大口投資家は、どの国が繁栄すべきかを決定しています。彼らは失敗しても責任を問われることはありません。それに対し、わたしたちは国を発展させるためのノウハウを数多く学んできました。マレーシアがいわゆる「虎」と呼ばれるほどの経済を築き上げたのは、メディアや金融詐欺師たちの助言を聞いたからではありません。そうではなく、実は彼らの助言と全く逆を行うことによって、わたしたちは発展を遂げたのです。わたしたちは生意気で僭越ながら、同じことが他の発展途上国にも当てはまると申し上げているのです。 わたしたちにはかつて、製造商品としては二つしかありませんでした。製造業における技術もありませんでした。しかし、わたしたちは産業化を決定し、実行に移しました。わたしたちが受けた助言は「社会・経済の不均衡を是正する措置は、公正でなく機能もしない」というものでした。 ところが、マレーシアの「新経済政策」は機能し、人種暴動のない公正な社会を作り上げました。同様に「多数派マレー人が抑圧的行動に出るだろう」という助言もありました。しかし現在、マレー人・中国人・インド人・イバン人・カダザン人、その他30の民族は調和して生活しています。 「発展途上国は自動車産業に参入すべきではない」という助言もありました。しかし、わたしたちは参入し、成功を収めました。 1982年は民営化が叫ばれ始めた年で、わたしたちも民営化計画を発表しました。多くの先進国が民営化に失敗した中、マレーシアは400以上の官庁・企業・行政府の民営化を成し遂げ、現在もそれを継続しています。 |
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| 日本株式会社は海外から批判を受けました。しかし、わたしたちは自分たちでマレーシア株式会社を作り上げたのであり、それによってマレーシア経済は他のほとんどの国よりも早く成長・繁栄したのです。 | |
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マレーシアは通常の方法を取りませんでした。通常であればリンギット防衛のために利率引き上げに踏み切るところでしたが、皆さんもご存じのように、わたしたちはそうはしませんでした。しかし、これ以上マレーシアの自慢話を羅列して、皆さんを退屈させることはやめにしましょう。 |
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マレーシアが取った特別な方法の一つ、それは物事を大きく捉えることでした。わたしたちは830キロメートルに及ぶ南北ハイウェイ、六キロ埠頭を持つ新しいウェストポート、ペナン橋、クアラルンプール・テレコミュニケーション・タワー、ペトロナス・ツインタワーなど、多くの巨大プロジェクトを完成させました。そして、それらがマレーシアの富の成長に貢献しています。それらは記念碑ではなく、基本的インフラストラクチャーなのです。 | |
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わたしたちは切迫した需要により、クアラルンプールにアジア最大の空港を建設中です。現在のクアラルンプール空港は33年前に建設されたもので、40万人の利用者にしか対応できません。しかし現在、クアラルンプール空港の利用者は1600万人で、拡張の余裕はありません。 世界中で、各国政府は新しい空港が必要となり、その場所を探すのに苦労しています。100万人の利用者用の空港を建設することなど馬鹿げています。そのような空港では、より大きな空港が求められたとき、拡張できません。もし新空港を建設するのなら、100年とは言わずとも、少なくとも30年はもつような大きな空港を建設すべきです。しかし、わたしたちは「巨大空港など建設すべきではない」との助言を受けています。それはなぜでしょうか? なぜなら先進国は、マレーシアが巨大空港の負担に喘ぎ、先進国の投資に応えられなくなると恐れているからです。マレーシア経済が破綻し、投資した額が戻らなくなると考えているのでしょう。しかし、国家管理に関しては、もう少しわたしたちを信頼してください。 |
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わたしたちは物事を大きく捉えたいと考えています。わたしたちは、他の発展途上国に富をもたらそうという遠大な目標すら立てています。わたしたちはメコン川開発を提案し、手始めにシンガポールからクンミンまでの鉄道建設を計画しています。わたしたちは輸送網が経済発展を促進することを知っています。これは巨大プロジェクトです。小さなプロジェクトでは経済へのインパクトを与えることはほとんどできません。 わたしたちは中国・中央アジア・ヨーロッパを鉄道で結びたいと考えています。中央アジアは陸に取り囲まれており、鉄道なしには発展しません。ヨーロッパでは石油などの積荷を運ぶために鉄道網が張り巡らされました。どうして中央アジアに巨大鉄道を建設してはならないのでしょうか? その鉄道には2キロメートルの長さの巨大列車が製品を運ぶために往来する予定です。この鉄道により中央アジアは発展し、世界的にも巨大市場ができあがるでしょう。 |
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わたしたちは他にも、隣国、そして先進国を含めた世界を繁栄させる巨大プロジェクトを計画しています。 しかし、今わたしたちはこの計画の実行に着手できません。なぜなら、先進国はわたしたちが巨大プロジェクトを行うことを望んでいないからです。そうしたプロジェクトはわたしたちにはふさわしくなく、生意気な計画であり、口に出すことすら失敬なのです。もしわたしたちが巨大プロジェクトの資金を集め、実行し続けるなら、彼らは今度は通貨攻撃によってその資金を奪おうとするのです。 ある人々の頭の中には自国繁栄政策しかないようです。しかし、そうした政策はだれの利益にもならず、さらに悪いことには発展を妨げ、阻害し、遅らせるのです。 |
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アジアには、アジア人だけでなくあらゆる人にとってのチャンスが転がっています。もう少しチャンスがあれば、わたしたちは繁栄できます。もちろん、どの国も日本ほどの経済大国になれるわけではありませんが、極めて貧しい状況からは脱却できるでしょう。もしヨーロッパ・北米がほとんど一様に繁栄しているのなら、どうしてアジアももう少し繁栄して悪い理由があるでしょうか?
わたしたちは世界に敵対した行動を取るつもりはありません。わたしたちはヨーロッパ人ほど民族的に統一が取れておらず、人種・背景・宗教・言語・文化など多岐に及んでいます。わたしたちは常に不一致を抱え、互いに争うこともあるかもしれません。それゆえ、結束してヨーロッパに敵対する可能性などありません。アジア人の繁栄・幸福を恐れる必要など何もないのです。先進国は利益しか得ません。なぜなら、わたしたちの繁栄は先進国、そして世界の繁栄につながるからです。ですから、アジアでのチャンスを検討し、そのチャンスに賭けてみてください。 |